全ての人に使いやすいウェブサイトが選ばれる時代|ウェブアクセシビリティ対応の完全ガイド
ウェブアクセシビリティという単語が広まっていますが、聞いたことはあるでしょうか。簡略に表現するとすべての人に使いやすいWEBの基準を示したものです。実は昔からある考え方なのですが、近年になって国が言及し直したことで再度注目されるようになりました。
当記事では分かりづらいウェブアクセシビリティのあれこれをなるべくわかりやすく解説します。
この記事でわかる事:
- ウェブアクセシビリティとはなにか
- 法律の解釈について
- 対応することでどんな特があるか
- 今すぐできる対策について
目次
ウェブアクセシビリティとは何か?なぜ今注目されているのか
ウェブアクセシビリティとは、年齢や障害の有無に関わらず、全ての人がウェブサイトを利用できるようにする取り組みを指します。視覚障害のある方がスクリーンリーダーで情報を取得できる、高齢者が小さな文字でも読みやすい、マウスが使えない方でもキーボードだけで操作できる。こうした配慮を組み込むことで、ウェブサイトは真の意味で「誰もが使える」ものになります。
日本では現在、65歳以上の人口が全体の29.1%を占め、今後も高齢化は進行します。総務省の調査によれば、60代のインターネット利用率は90%を超えており、高齢者もデジタルサービスを日常的に使う時代になりました。さらに、厚生労働省の統計では身体障害者手帳所持者は約436万人、精神障害者保健福祉手帳所持者は約122万人にのぼります。
企業がウェブアクセシビリティに取り組むべき理由は、法令対応だけではありません。より多くの人に情報を届け、サービスを利用してもらうことは、ビジネスの成長に直結します。実際にウェブアクセシビリティ対応を進めた企業の中には、ユーザー層の拡大やサイト滞在時間の増加といった成果を報告する事例が増えています。今、ウェブアクセシビリティは企業にとって「やるべきこと」から「やりたいこと」へと変わりつつあるのです。
ウェブアクセシビリティは義務?努力義務?
2024年4月、障害者差別解消法の改正法が施行され、民間事業者にも「合理的配慮の提供」が義務化されました。この法改正を受けて、「ウェブアクセシビリティ対応が義務化された」という情報が広まりましたが、実は正確ではありません。法的な位置づけを正しく理解することが、ウェブアクセシビリティ対応の第一歩です。
障害者差別解消法では、大きく2つの概念が定められています。1つ目が「合理的配慮」、2つ目が「環境の整備」です。合理的配慮とは、障害のある方から「このウェブサイトが使えない」「この情報にアクセスできない」といった申し出があった際に、過重な負担にならない範囲で個別に対応することを指します。これは2024年4月から民間事業者にも義務となりました。
一方、環境の整備とは、そうした個別の申し出が発生する前に、あらかじめバリアフリー化を進めておく事前的改善措置のことです。ウェブアクセシビリティ対応は、この「環境の整備」に該当します。環境の整備は、法改正後も引き続き努力義務のままです。つまり、ウェブアクセシビリティへの対応は法的な義務ではなく、努めるべきこととされています。
では罰則はあるのでしょうか。障害者差別解消法における罰則は、主務大臣からの報告要求に応じない場合や虚偽の報告をした場合に限られ、20万円以下の過料が科されるのみです。ウェブアクセシビリティ未対応そのものに対する罰則はありません。また、日本国内では現時点でウェブアクセシビリティに関連した訴訟事例も確認されていません。
ただし誤解してはいけないのは、「努力義務だからウェブアクセシビリティ対応しなくてもいい」わけではないということです。障害のある方から「ウェブサイトが使えない」という申し出があった場合、その個別対応は義務となります。もしウェブサイトが最初からアクセシブルであれば、そうした申し出自体が減り、個別対応のコストや手間を大幅に削減できます。環境の整備は努力義務ですが、合理的配慮をスムーズに行うための最も効率的な方法なのです。
この法的位置づけを踏まえると、ウェブアクセシビリティ対応は「罰則を避けるため」ではなく、「全ての顧客に価値を届け、ビジネスを成長させるため」に取り組むべきものだと言えます。
努力義務でも対応すべき5つの理由
ウェブアクセシビリティが努力義務であるとしても、多くの企業が積極的にウェブアクセシビリティへの取り組みを始めています。その理由は、ウェブアクセシビリティ対応で得られるビジネスメリットが明確だからです。
潜在顧客層の拡大
1つ目のメリットは、潜在顧客層の拡大です。先ほど触れたように、身体障害者手帳所持者は約436万人、高齢者は人口の約3割を占めます。さらに色覚に特性のある方は男性の約5%、女性の約0.2%とされています。これらを合計すると、日本の人口の15%以上がウェブアクセシビリティの恩恵を受ける可能性があります。アクセシブルなウェブサイトは、この層を確実に取り込むことができるのです。
SEO効果の向上
2つ目は、SEO効果の向上です。ウェブアクセシビリティ対応で求められる適切な見出し構造、代替テキスト、明確なリンクテキストは、検索エンジンにとっても理解しやすいコンテンツになります。Googleは「ユーザーにとって使いやすいサイト」を評価する傾向を強めており、ウェブアクセシビリティ対応はSEO施策としても有効です。実際にウェブアクセシビリティ対応後、検索順位が上昇したという報告も複数の企業から出ています。
企業ブランド価値の向上
3つ目は、企業ブランド価値の向上です。ESG投資やCSR活動への関心が高まる中、ウェブアクセシビリティへの取り組みは企業の社会的責任を可視化する手段となります。採用活動においても、多様性を重視する企業姿勢は求職者に好印象を与えます。特に若い世代は、企業の社会的な取り組みを重視する傾向が強く、ブランドイメージの向上に直結します。
合理的配慮への事前対応によるコスト削減
4つ目は、合理的配慮への事前対応によるコスト削減です。ウェブサイトが最初からアクセシブルであれば、障害のある方から「使えない」という申し出があった際の個別対応が最小限で済みます。後からウェブアクセシビリティに対応して改修するよりも、設計段階から組み込む方がコストは大幅に抑えられます。
ユーザー満足度の向上
5つ目は、ユーザー満足度の向上です。アクセシブルなウェブサイトは、障害の有無に関わらず全てのユーザーにとって使いやすくなります。文字が読みやすい、ボタンが押しやすい、情報が探しやすい。こうした改善は、コンバージョン率の向上や離脱率の低下につながります。実際にウェブアクセシビリティ対応を進めた企業からは、問い合わせ対応の負担が減ったという声も聞かれます。
努力義務だからこそ、ウェブアクセシビリティに対応した企業は競合との差別化を図れます。「全ての人に優しいサービス」を提供する企業として、市場での優位性を確立できるのです。
海外の法規制動向は?グローバル展開企業が知るべきこと
日本ではウェブアクセシビリティが努力義務にとどまりますが、海外では法的義務として厳格に運用されている国が増えています。特にグローバルに事業を展開する企業や、海外顧客を対象とするサービスを提供している企業にとって、この動向は無視できません。
米国では1990年に制定されたADA法(Americans with Disabilities Act:障害を持つアメリカ人法)が、ウェブサイトにも適用されるケースが増えています。ADA法は公共施設での障害者差別を禁止する法律ですが、裁判所はウェブサイトも「公共施設」に含まれると判断する事例が相次いでいます。UsableNetの調査によれば、2021年にはウェブアクセシビリティ関連の訴訟が4,000件を超えました。訴訟件数は2017年から2018年にかけて前年比181%という急増を見せ、その後も高い水準が続いています。
実際に訴訟対象となった企業には、AmazonやNetflix、ドミノピザといった大手企業が含まれます。著名な事例としては、2019年に全盲のファンが海外の女性歌手のウェブサイトがアクセシブルではないとして訴訟を起こしたケースもあります。これらの訴訟の多くで原告が勝訴しており、企業は多額の和解金支払いやウェブサイトの全面改修を余儀なくされています。注目すべきは、訴訟を経験した大手企業の多くが、その後ウェブアクセシビリティへのコミットメントを大幅に強化している点です。
欧州では2025年6月に欧州アクセシビリティ法(EAA:European Accessibility Act)が施行されます。この法律は、EU加盟国内で販売される製品やサービスに対してアクセシビリティ要件を義務付けるもので、ウェブサイトやモバイルアプリも対象に含まれます。対象となるのは、EC事業者、銀行サービス、交通サービス、電子書籍、コンピュータやOS、ATMなど広範囲にわたります。EU市場で事業を展開する日本企業も当然、ウェブアクセシビリティ対応が求められます。
これらの国際的な動向から見えてくるのは、ウェブアクセシビリティがグローバルスタンダードになりつつあるという事実です。日本国内ではウェブアクセシビリティが努力義務であっても、海外市場を視野に入れる企業にとっては、ウェブアクセシビリティ対応が事実上の必須要件となっています。将来的に日本でもウェブアクセシビリティの法的義務化される可能性も考えると、今からウェブアクセシビリティへの準備を進めておくことは戦略的に正しい選択と言えるでしょう。
ウェブアクセシビリティの国際基準:WCAG 2.2を理解する
ウェブアクセシビリティに取り組む際、指針となるのがWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)です。WCAGは、W3C(World Wide Web Consortium)が策定する国際的なウェブアクセシビリティのガイドラインで、世界中の多くの国や企業がこれをウェブアクセシビリティの基準としています。
WCAGには現在、WCAG 2.0、2.1、2.2のバージョンがあります。最新版のWCAG 2.2は2023年10月に勧告され、2.1からいくつかのウェブアクセシビリティに関する達成基準が追加されました。日本では、WCAG 2.0をベースとしたJIS X 8341-3:2016が国内のウェブアクセシビリティ規格として制定されており、多くの企業や自治体がこれをウェブアクセシビリティの目標として掲げています。
WCAGでは、ウェブアクセシビリティの達成基準がレベルA、AA、AAAの3段階に分類されています。レベルAは最低限満たすべきウェブアクセシビリティの基準で、これを満たさないとウェブコンテンツが一部のユーザーにとって利用不可能になる可能性があります。例えば、画像に代替テキストがない、キーボードで操作できないといった問題は、レベルAの違反にあたります。
レベルAAは、多くの企業や組織が目指すべきウェブアクセシビリティの推奨水準です。国際的にも、レベルAAへの準拠を法的義務とする国が増えています。レベルAAでは、カラーコントラスト比の確保、ズーム機能への対応、複数の手段での操作性確保などが求められます。実務的には、レベルAAを達成することで、大多数のユーザーがウェブサイトを問題なく利用できる状態になります。
レベルAAAは最も厳格なウェブアクセシビリティの基準で、全ての達成基準を満たすのは現実的に困難な場合が多いとされています。WCAGでも、レベルAAAを全てのコンテンツに適用することは推奨されておらず、可能な範囲で部分的にウェブアクセシビリティ対応することが現実的とされています。
多くのウェブアクセシビリティ専門家が推奨するのは、まずレベルAの完全準拠を目指し、その後レベルAAへと段階的に進めていくアプローチです。特に初めてウェブアクセシビリティに取り組む企業にとって、いきなり完璧を目指すよりも、着実に改善を重ねていく方が継続的なウェブアクセシビリティへの取り組みにつながります。
誰のためのアクセシビリティか
ウェブアクセシビリティと聞くと、視覚障害者への対応をイメージする方が多いかもしれません。しかし実際には、はるかに幅広いユーザーがウェブアクセシビリティの恩恵を受けます。具体的にどのような方がウェブアクセシビリティを必要としているのか、理解を深めることが効果的なウェブアクセシビリティ対応の出発点です。
視覚障害のある方は、スクリーンリーダーと呼ばれる音声読み上げソフトを使ってウェブサイトを利用します。日本ではNVDAやJAWSといったソフトが主に使われています。スクリーンリーダーは、画面上のテキスト情報を音声で読み上げますが、画像の内容は代替テキスト(alt属性)がなければ理解できません。また、見出しやリンクが適切に設定されていないと、ページ全体の構造を把握することが困難になります。
聴覚障害のある方にとって、動画コンテンツの字幕は不可欠です。音声だけで情報が提供されている場合、内容を理解することができません。企業の製品紹介動画、オンラインセミナー、カスタマーサポートの説明動画など、あらゆる動画コンテンツに字幕を付けることで、聴覚障害のある方も同じ情報にアクセスできるようになります。
運動機能に障害のある方の中には、マウスを使うことが難しい方がいます。こうした方はキーボードだけでウェブサイトを操作します。Tabキーでリンクやボタンを移動し、Enterキーで選択するといった操作が基本です。もしウェブサイトがマウス操作を前提に作られていると、キーボードだけでは重要な機能にアクセスできない事態が発生します。
高齢者の方々も、ウェブアクセシビリティの重要な受益者です。加齢に伴う視力の低下、細かい操作の困難さ、情報処理速度の変化などに配慮したデザインが求められます。文字サイズが小さすぎる、ボタンの配置が密集している、時間制限が厳しいといった要素は、高齢者にとって大きなストレスとなります。
見落とされがちなのが、一時的な障害を持つ方々です。例えば腕を骨折してマウスが使えない、目の疲れで小さな文字が読みづらい、騒がしい環境で音声が聞き取れないといった状況は、誰にでも起こりえます。つまり、ウェブアクセシビリティは特定の誰かのためだけのものではなく、あらゆる状況下で全ての人に役立つのです。
こうした多様なユーザーを理解することで、ウェブアクセシビリティが決して特別な対応ではなく、「良いウェブデザイン」の本質であることが見えてきます。
今すぐできる!ウェブアクセシビリティ対応の基本10項目
ウェブアクセシビリティと聞くと専門的で難しそうに感じるかもしれませんが、実は基本的な項目の多くは、今すぐ取り組めるものばかりです。大規模な改修を待たずとも、日々の運用の中でウェブアクセシビリティを改善できるポイントを紹介します。
見出しの設定
まず取り組みたいのが、適切な見出し構造の設定です。HTMLのh1、h2、h3といった見出しタグを正しく使うことで、ページの構造が明確になります。スクリーンリーダーのユーザーは見出しを頼りにページ内を移動するため、見出しが適切に設定されていないと、必要な情報にたどり着くのに時間がかかります。
画像の代替テキストの設定
画像には必ず代替テキスト(alt属性)を記述しましょう。代替テキストは、スクリーンリーダーが画像の内容を読み上げる際に使用されます。ただし、全ての画像に詳細な説明が必要なわけではありません。装飾目的の画像にはalt=””(空の値)を設定し、情報を持つ画像には簡潔で的確な説明を記述します。
コントラスト比の確保
カラーコントラスト比の確保は、視認性に直結する重要な要素です。WCAGレベルAAでは、通常のテキストで4.5:1以上のコントラスト比が求められます。ただし、これはデザインの自由度と相反する側面があります。ブランドカラーが淡い色の場合、背景との組み合わせでウェブアクセシビリティの基準を満たせないこともあるでしょう。そうした場合は、重要な情報やボタンには基準を満たす色を使い、装飾的な要素では柔軟に対応するといったバランス感覚が必要です。無料のコントラストチェッカーツールを使えば、色の組み合わせがウェブアクセシビリティの基準を満たしているか簡単に確認できます。色覚に特性のある方は、赤と緑、青と黄色などの組み合わせが区別しにくいことがあるため、色だけで情報を伝えない工夫も大切です。
キーボードでの操作性
キーボードでの操作性確保は、運動機能障害のある方だけでなく、マウスを使わずに作業したいパワーユーザーにも喜ばれます。全てのリンク、ボタン、フォーム要素がTabキーで移動でき、Enterキーで操作できることを確認しましょう。
ラベルの設定
フォームには、各入力欄に対応するラベルを必ず設定します。「お名前」「メールアドレス」といったラベルをlabelタグで適切に関連付けることで、スクリーンリーダーのユーザーは何を入力すればいいのか理解できます。
リンク先がわかる名前を
リンクテキストは「こちら」「詳細」といった曖昧な表現を避け、リンク先の内容が分かるようにします。「製品カタログをダウンロード」「お問い合わせフォームへ」といった具体的な表現にすることで、スクリーンリーダーのユーザーがリンクだけを拾い読みした際にも理解できます。
動画コンテンツには字幕を
動画コンテンツには、可能な限り字幕を付けましょう。YouTubeであれば自動字幕機能もありますが、精度が十分でない場合もあるため、重要な動画には正確な字幕を用意することが望ましいです。
フォントサイズと行間の調整も、読みやすさを大きく左右します。本文は最低でも16px程度、行間は1.5倍以上を目安にすると良いでしょう。
フォーカス表示を明確に
フォーカス表示を明確にすることは、キーボード操作の快適さに直結します。デフォルトのブラウザのフォーカス表示が見づらい場合は、CSSで分かりやすいスタイルを設定しましょう。
エラーメッセージには特徴を
エラーメッセージは、赤い文字で表示するだけでなく、アイコンや記号を併用することで、色覚に特性のある方にも伝わりやすくなります。
これらの項目は、特別な技術がなくてもウェブアクセシビリティ対応に取り組めるものばかりです。まずは新規に作成するページから実践し、徐々に既存ページにもウェブアクセシビリティを展開していくことで、着実に改善します。
ウェブアクセシビリティ診断の進め方
ウェブアクセシビリティ対応を始めるにあたって、まずは自社サイトの現状を把握することが重要です。どこに問題があるのか、何から手を付ければいいのかを明確にすることで、効率的なウェブアクセシビリティの改善計画を立てられます。
自社サイトの現状把握には、いくつかの方法があります。最も手軽なのは、無料の診断ツールを使った自動チェックです。代表的なツールとしては、GoogleのLighthouse、axe DevTools、WAVE(Web Accessibility Evaluation Tool)などがあります。これらのツールは、ブラウザの拡張機能やWebサービスとして提供されており、数分でウェブアクセシビリティの基本的な問題を洗い出すことができます。
Lighthouseは、Google Chromeに標準搭載されている診断ツールで、ウェブアクセシビリティだけでなくパフォーマンスやSEOも評価してくれます。開発者ツールを開いてLighthouseタブを選択し、レポートを生成するだけで、主要なウェブアクセシビリティの問題点とその改善方法が表示されます。
axe DevToolsは、より詳細なウェブアクセシビリティのチェックが可能なブラウザ拡張機能です。検出された問題に対して、WCAGの達成基準との関連や修正方法が具体的に示されるため、開発者にとって非常に実用的です。
WAVEは、ページ全体を視覚的に評価できるツールです。ウェブアクセシビリティの問題のある箇所がアイコンで示され、どの要素に問題があるのかが一目で分かります。
ただし、自動診断ツールには限界があります。WCAGの達成基準の中には、機械的なチェックでは判断できないものも多く含まれています。例えば、代替テキストが設定されているかどうかは自動チェックできますが、その内容が適切かどうかは人間が判断する必要があります。
そのため、自動診断に加えて、実際にスクリーンリーダーを使ってサイトを操作してみることも有効です。NVDAは無料のスクリーンリーダーで、Windows環境であれば誰でもダウンロードして使用できます。自分のサイトをスクリーンリーダーで体験してみると、どこが使いづらいのか、どの情報が伝わっていないのかが実感できます。
専門家によるウェブアクセシビリティの診断サービスを利用することも選択肢の一つです。専門家は、自動ツールでは検出できない問題や、ユーザー体験の観点からの評価を提供してくれます。診断サービスでは、詳細なレポートとともに、優先順位をつけたウェブアクセシビリティの改善提案が提供されることが一般的です。
診断結果を受け取ったら、全ての問題を一度に解決しようとせず、優先度をつけることが大切です。ユーザーへの影響が大きい問題、修正が比較的容易な問題から着手し、段階的にウェブアクセシビリティの改善を進めていきましょう。
ウェブアクセシビリティの診断は一度きりで終わるものではありません。新しいコンテンツを追加する際や、サイトのリニューアル時には、再度診断を行い、ウェブアクセシビリティが維持されているかを確認することが重要です。
段階的な予算と体制に応じた進め方
ウェブアクセシビリティ対応は、一気に完璧を目指す必要はありません。企業の規模や予算、体制に応じて、段階的にウェブアクセシビリティを進めることが現実的であり、持続可能です。
小規模サイトを運営している企業や、限られた予算でウェブアクセシビリティに取り組む場合は、最小限の対応から始めましょう。まずはレベルAの達成基準を目標とし、前述の基本10項目を中心にウェブアクセシビリティの改善を進めます。コーポレートサイトのような情報発信型のサイトであれば、代替テキストの追加、見出し構造の整理、カラーコントラストの改善といった施策だけでも、大きな効果が期待できます。
中規模サイト
中規模サイトで、より本格的なウェブアクセシビリティ対応を目指す場合は、レベルAAの準拠を目標とします。この段階では、サイト全体の構造を見直し、フォームの改善、キーボード操作の最適化、動画への字幕追加など、やや高度なウェブアクセシビリティ対応も含まれます。専門家によるウェブアクセシビリティの診断を受け、優先順位をつけた改善計画を立てることが効果的です。
大規模サイト
大規模サイトや複数のサイトを運営している企業では、全社的な取り組みとしてウェブアクセシビリティの体制を整えることが求められます。ウェブアクセシビリティ方針を策定し、社内のデザイナーや開発者に対する研修を実施します。新規に作成するページやコンテンツについては、最初からウェブアクセシビリティの基準を満たすようガイドラインを整備し、チェックリストを用いた確認プロセスを導入します。
既存のページ
既存のページについては、全てを一度に改修するのではなく、更新のタイミングに合わせて順次ウェブアクセシビリティ対応していく方法が現実的です。サイトのリニューアル計画がある場合は、その機会を活用してウェブアクセシビリティ対応を盛り込むことで、追加コストを抑えられます。
継続的なウェブアクセシビリティの改善体制の構築も重要です。ウェブアクセシビリティは、一度対応すれば終わりではなく、新しいコンテンツを追加する度に維持していく必要があります。定期的にウェブアクセシビリティの診断を実施し、問題が見つかれば速やかに修正するサイクルを回すことで、品質を保ち続けることができます。
予算が限られている場合でも、優先順位をつけて少しずつウェブアクセシビリティを進めることで、着実に改善できます。重要なのは、完璧を目指して何もしないよりも、できることからウェブアクセシビリティに始めることです。
制作・運用フローへの組み込み方
ウェブアクセシビリティを持続的に維持するには、制作や運用のフローに組み込むことが不可欠です。後からウェブアクセシビリティに対応するのではなく、最初から考慮することで、コストと手間を大幅に削減できます。
企画段階
企画段階では、ウェブアクセシビリティの要件を明確にしましょう。どのレベルを目指すのか、どの達成基準を優先するのかを決定します。ターゲットユーザーに高齢者や障害者が含まれる場合は、特に重点的にウェブアクセシビリティ対応すべき項目を洗い出します。
デザイン段階
デザイン段階では、カラーパレットの選定時にコントラスト比を確認します。ブランドカラーをベースにしつつ、テキストや重要な要素には十分なコントラストが確保できる色の組み合わせを検討します。ボタンやリンクのサイズは、タップしやすい大きさを確保し、余白を適切に設けます。
開発段階
開発段階では、セマンティックなHTMLを心がけます。見出しタグ、リスト、ボタン、リンクといった要素を意味に応じて正しく使用することで、スクリーンリーダーのユーザーにも構造が伝わります。
フォームの実装
フォームの実装では、labelタグを必ず設定し、エラー表示の仕組みを明確にします。JavaScriptで動的に表示を変更する場合は、スクリーンリーダーにも変更が伝わるよう、適切な属性を使用します。
公開前の検証プロセスでは、自動診断ツールを使ったウェブアクセシビリティのチェックに加えて、実際にスクリーンリーダーで動作確認を行います。主要なブラウザでの表示確認に加え、拡大表示やハイコントラストモードでも問題ないかをテストします。
運用・更新時のウェブアクセシビリティの品質維持も重要です。新しい記事を投稿する際、画像には必ず代替テキストを記述する、見出しを適切に使うといったルールを徹底します。CMSの入力画面に注意事項を表示する、テンプレートに最初から適切な構造を組み込んでおくといった工夫で、運用担当者の負担を減らせます。
社内でのウェブアクセシビリティの教育も欠かせません。デザイナーや開発者だけでなく、コンテンツを作成する編集者やマーケティング担当者にも、基本的なウェブアクセシビリティの知識を共有します。なぜウェブアクセシビリティが重要なのか、どのような配慮が必要なのかを理解してもらうことで、自然と質の高いコンテンツが生まれます。
制作フローにウェブアクセシビリティを組み込むことで、ウェブアクセシビリティ対応は特別な作業ではなく、当たり前の業務の一部になります。この習慣化こそが、持続可能なウェブアクセシビリティ対応の鍵です。
ウェブアクセシビリティ対応の成功事例
ウェブアクセシビリティに取り組んだ企業は、実際にどのような成果を得ているのでしょうか。具体的な事例を通じて、ウェブアクセシビリティ対応の効果を見ていきます。
大手EC事業者の中には、ウェブアクセシビリティ対応によってコンバージョン率が向上した事例があります。楽天市場では、出店店舗向けにウェブアクセシビリティのガイドラインを提供し、対応を推進しています。商品画像への代替テキスト設定、商品説明の構造化、フォームの改善などを進めた結果、高齢者や障害者からの購入が増加したという報告があります。
自治体ウェブサイトでは、法的要請もあり、積極的にウェブアクセシビリティ対応が進められています。東京都のウェブサイトは、JIS X 8341-3:2016のレベルAAに準拠することを目標に掲げ、継続的なウェブアクセシビリティの改善を行っています。視覚障害者団体からのフィードバックを受けながらウェブアクセシビリティの改修を進めた結果、問い合わせ対応の負担が減少し、より多くの都民が必要な情報にアクセスできるようになりました。
中小企業でも、段階的なウェブアクセシビリティ対応で成果を上げている例があります。あるBtoB企業では、限られた予算の中で、まずトップページと主要な製品ページのウェブアクセシビリティ改善に着手しました。代替テキストの追加、見出し構造の整理、カラーコントラストの改善といった基本的なウェブアクセシビリティの施策を実施したところ、サイト全体の滞在時間が伸び、問い合わせ数も増加しました。
金融機関では、オンラインバンキングのウェブアクセシビリティ向上が顧客満足度に直結しています。三菱UFJ銀行は、ウェブアクセシビリティ方針を公開し、継続的なウェブアクセシビリティの改善に取り組んでいます。特に高齢顧客が増加する中、見やすく操作しやすいインターフェースの提供は、デジタルサービスの利用促進に大きく貢献しています。
メディア企業では、動画コンテンツへの字幕追加が視聴者層の拡大につながっています。NHKは、放送と同時に字幕を配信するリアルタイム字幕の技術開発を進めており、聴覚障害者だけでなく、音を出せない環境で視聴する人々からも好評を得ています。
これらの事例に共通するのは、ウェブアクセシビリティ対応が単なるコンプライアンスではなく、ビジネス価値を生み出しているという点です。ウェブアクセシビリティ対応後の効果測定を行い、継続的にウェブアクセシビリティの改善を重ねることで、投資対効果を最大化できます。
よくある課題と解決方法
ウェブアクセシビリティに取り組む中で、多くの企業が共通して直面する課題があります。これらの課題に対する実践的な解決方法を紹介します。
デザイン性とウェブアクセシビリティの両立は、最もよく聞かれる悩みです。「ブランドイメージを保ちながらウェブアクセシビリティに対応できるのか」という疑問を持つ企業は少なくありません。しかし実際には、ウェブアクセシビリティとデザイン性は対立するものではありません。カラーコントラストのウェブアクセシビリティ基準を満たしながらも、洗練されたデザインは十分に可能です。例えば、背景色を少し調整する、テキストの太さを変える、影や境界線を効果的に使うといった工夫で、視認性を確保しつつ美しいデザインを実現できます。
レガシーシステムでのウェブアクセシビリティ対応も課題になりがちです。古いCMSや独自開発のシステムでは、構造的な変更が難しい場合があります。この場合は、できる範囲からウェブアクセシビリティに始めることが重要です。HTMLの修正が困難であれば、まずはコンテンツレベルでのウェブアクセシビリティ改善に取り組みます。
予算確保の説得材料が必要なケースも多いです。経営層や意思決定者に対しては、コンプライアンスの側面だけでなく、ウェブアクセシビリティのビジネスメリットを具体的に示すことが効果的です。潜在顧客の拡大、SEO効果、ブランド価値の向上といった定量的・定性的な効果を、他社のウェブアクセシビリティ事例やデータを用いて説明します。
社内でのウェブアクセシビリティの理解促進は、長期的なウェブアクセシビリティへの取り組みに不可欠です。ウェブアクセシビリティの重要性を理解してもらうには、実際に体験してもらうことが最も効果的です。社内勉強会でスクリーンリーダーのデモを行う、色覚シミュレーションツールで自社サイトを見てもらうといった取り組みが有効です。
外部ベンダーとの連携では、要件定義の段階でウェブアクセシビリティ対応を明確にすることが重要です。RFP(提案依頼書)にウェブアクセシビリティの要件を記載し、どのレベルを目指すのか、どの達成基準を優先するのかを具体的に示します。
これらの課題は、多くの企業が通る道です。先行事例を参考にしながら、自社に合ったウェブアクセシビリティの方法を見つけていくことで、乗り越えることができます。
Webaxisのウェブアクセシビリティ支援について
ウェブアクセシビリティの重要性は理解できても、「何から始めればいいのか分からない」「社内にウェブアクセシビリティのノウハウがない」「継続的にウェブアクセシビリティ対応できるか不安」といった声を多くいただきます。Webaxisは、そうした企業の皆様を、ウェブアクセシビリティの診断から改善、そして運用まで一貫してサポートします。
私たちの強みは、実践的なアプローチです。それぞれの企業が抱える課題や制約は異なります。予算、スケジュール、既存システムの状況、社内体制など、様々な条件の中でウェブアクセシビリティの最適な解決策を提案します。
まずはウェブアクセシビリティの現状診断から始めます。自動診断ツールや人的評価を組み合わせ、サイト全体のウェブアクセシビリティの問題点を洗い出します。診断結果は、単に問題を列挙するだけでなく、優先順位をつけたウェブアクセシビリティの改善提案としてお届けします。
改善フェーズでは、貴社の制作体制に合わせたウェブアクセシビリティ対応を行います。社内で改修を進められる場合は、具体的な修正方法をガイドとしてご提供します。
継続的なウェブアクセシビリティの運用支援も私たちの重要な役割です。一度改善しても、新しいコンテンツを追加する度にウェブアクセシビリティが損なわれては意味がありません。運用ガイドラインの作成、定期的なウェブアクセシビリティの診断とフィードバックなど、必用に応じて品質を維持するための仕組みづくりをお手伝いします。
ウェブアクセシビリティは、全ての人に開かれたウェブサイトを実現し、ビジネスの成長につなげる取り組みです。Webaxisは、そのウェブアクセシビリティの実現に向けて、最良のパートナーでありたいと考えています。
現在のサイトの簡易診断や、ウェブアクセシビリティ対応の進め方についてのアドバイスなど、お気軽にご相談ください。貴社のウェブサイトが、より多くの人に届き、選ばれるサイトになるよう、私たちは全力でサポートいたします。